温熱療法とは、熱に弱いとされるがん細胞を高温にして死滅させようとする治療法です。
がん細胞が本当に正常な細胞より熱に弱いかどうかは、いまではかなりよく研究されており、いくつかの事実が明らかになっています。
- がん細胞はセ氏41度以上になると損傷を受けて死にはじめ、42.5度以上になると一層生存率が低下する。これより高温になるほど、また長時間その温度にさらされるほど、より多くがより早く死滅する。
- がんの内部は血流が少ないため、周囲の温度を上げると血流による冷却が行われにくく、その結果、温度を上昇させやすい。
- がん細胞は内部の酸性度が高いため、一般に温度上昇に対して正常細胞より敏感に反応する。これらのことから、がん細胞は高温状態におかれると正常細胞よりも先に損傷を受けたり死滅することは確かです。
すでに20年以上前から試みられていた初期の現代的温熱療法では、患者の体をお湯の流れるマットでくるんだり、あるいは人工透析治療のように、患者の血流をチュープで外に引き出し、ヒーターで加熱してから体内に戻す血液循環が行われました。その後、がんの温度を上げるためのさまざまな方法が考え出されました。いまでは、がんが浅いところにある場合は体の外から電磁場やマイクロ波でがんを加温する、また食道がんや直腸がん、子宮ガンなどの場合は、口や肛門や膣から加熱装置を入れて温度を上昇させるなどの方法がとられます。
体の表面に近いがんは加温しやすいものの、奥深くのがんは周囲の脂肪や空気、それに骨などに遮られるため、効果的な温熱療法は難しいようです。
治療効果は温度が高く、加温時間が長いほど高まります。しかしその場合は正常な組織も損傷を受けるため、治療時間は一般に1回40〜60分で、一週間に1〜2回ということです。
いまのところ温熱療法が中心的な治療法として用いられることは少なく、おおむね放射線治療などと併用されます。
ハイパ−サ−ミア
(温熱療法装置)
山本ピニタ−製
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最近ではたとえば食道がんを温めるためチュ−プの中に放射線源を入れておき、温熱療法と放射線治療を同時に行う方法も開発されています。
がんの温度を高くしておくと、放射線照射や抗がん剤の治療効果がいちじるしく向上することが分かったため、このような複雑な手法がしだいに普及しつつあります。また温熱療法と放射線治療を併用すると、放射線の副作用が減少するという報告もあります。
しかし、治療を行う医師が温熱療法に熟練していないと、問題も生じます。たとえば温熱療法を同じ条件に繰り返しているとがん細胞が熱耐性(熱に対する抵抗力)をもつようになり治療効果が低下する、加温しすぎるとやけどや痛みを生じる、体の深部に電磁場やマイクロ波を当てた場合には頻脈(ひんみゃく)や体温上昇が現れるなどです。
最近では温熱療法のための設備が多くの病院に設置され、医療保険も適用されるようになっています。この治療法は今のところ担当医が最初に選択する治療法ではなく、他の治療が困難な局所の進行がんや再発がんに対しての選択肢の一つです。
しかし温熱療法はいわば“体にやさしい治療法”でもあり、将来は主要な癌治療法のひとつになるだろうと見ている専門家も少なくありません。 |